家庭血圧を読み解く①
2016年05月05日
最近のニュースの中で、医療に関係するものとして、芸人の前田健さんの訃報がありました。44歳の若さで心筋梗塞が発症したと思われます。患者さんからの問い合わせもあり、その都度、私の考察を述べています。おそらく食前・食後ともに中性脂肪値が高く、結果として超悪玉コレステロール値が高かったのではないかと思われます。そうであれば防ぐことができた事故であるだけに、悔やまれます。
今回は血圧について書きます。高血圧の件で当院に初めて診察にこられる患者さんの多くは壮年期の方です。その中には軽症の方が多く含まれていますが、だからといって軽視せず、ご期待には十分応えていかなければいけません。
高血圧診療の基本は家庭血圧測定で、これは言うまでもありません。そもそも家庭で血圧を測ってみないと、本当の高血圧症かどうか診断がつかない、というのが最大の理由です。特別な理由がない限り、高血圧患者さんの全員に家庭血圧を測定して欲しいと考えています。しかし、若い方の中には、まだ家庭血圧計を購入する決心がつかない方もあり、その場合には当院では1週間、家庭血圧計を貸し出しています。
さて高血圧診療を行う際、我々が指針にしている「高血圧診療ガイドライン」というものがあります。血圧測定法から治療法まで、様々な決め事が書かれており、世界的水準から評価すればとてもよくできた指南書です。
その中で、家庭血圧の測りかたについての記載をとりあげますと、「座って1~2分の安静の後に、基本的に2回測り、その平均値を記録する」とあります。以前は2回測るとの記載はなかったものが、追加されました。しかし、当院では、1~2分の安静の後なら、1回測定するだけで十分との考え方を貫いています。これには2つの理由があります。
現実的には、朝食前の家庭血圧測定は、出勤前の気忙しさから「座ってすぐに」測定してしまうことが多いはずです。そういった場合に、1回目は普段より極端に高い血圧が表示され、おかしいと感じて2回目を測ると、下がっている。ならば、しっかり安静をとってから測れば、ホルモン動態(レニン・アンギオテンシン系)も安定するので1回ですむ、ということ。これが1つ目の理由。
もう一つの理由は、1回測るだけでもマンシェットを巻いた腕の末梢側は、一時的な虚血に陥るため、これに対する正常な反応として、血管内皮から一酸化窒素(NO)なる血管拡張物質が分泌されるはずで、この効果で2回目は血圧が下がっていてもおかしくないのです。血圧を測ったあとに腕が温かくなると感じられる方は、この現象が起こっている証拠で、血管内皮機能がしっかり保たれている患者さんほど、この変化は強く現れると思われます。だから本来の血圧を知るためには、1回目が最もよい、という考え方です。
当院ではこのような理由も添えながら、家庭血圧の測定法を最初にしっかり説明しています。我々が使う言葉で言うと、たかが家庭血圧、されど家庭血圧、です。今回のブログは、皆さんにとって具体的な利益にならなかったかも知れませんが、家庭血圧を深く読み解きたいと願っている私の考え方の一部を述べたまでです。できれば続編を書きます。