2012/12/02 我々はイヌイットにはなれない―その2 @名古屋 内科

2012/12/02 我々はイヌイットにはなれない―その2 @名古屋 内科

2012年12月03日

寒くなってきました。今、巷では、ウイルス性胃腸炎が流行しています。
発熱に加えて嘔気、嘔吐があり、点滴を必要とする例が多くみられます。
ひとたび発生すると、家族内で広がりやすいこともあり、困った病気です。

さて、予告通り、赤肉についての続編を書きます。
そもそもローカーボダイエットがもてはやされる発端として、「イヌイット(エスキモー)は糖尿病になりにくい」という事実がありました。
ちなみにエスキモーという言葉は、生肉を食らう者、という差別的なニュアンスがあるため、現在ではイヌイットと呼ぶのだそうです。
糖質をほとんど摂らずに肉を中心に食べていれば糖尿病になりにくいのだ、ということから、糖質制限食を糖尿病患者さんに応用したり、
糖尿病発症の予防に用いよう、という発想が生まれたわけです。

さてイヌイットは主にアザラシを食べて生きています。アザラシの肉というのはどんな肉なのか、と思い、調べてみましたところ、これが見事な赤肉でした。
考えてみればアザラシは肺呼吸する哺乳動物で、潜水して獲物をとらねばならないのですから、これはクジラと同じ状況です。
酸素を筋肉内に多く蓄えることのできるミオグロビンが是非とも必要な動物ですから、クジラと同様に赤肉であるのは不思議ではありません。

健康人が厳しい糖質制限食を続けた時、それが動物肉、特に赤肉が中心であると、むしろ糖尿病になるリスクが高くなることが、ハーバード大の研究グループによって明らかにされたことを、すでに述べました(ブログ2012/09/02, 2012/10/27など)。
すると、イヌイットの食生活は糖尿病になりやすいものであるはずで、この法則に反するではありませんか。

だから、この件は、冷静に考え直す必要があると思います。
イヌイットの糖尿病の発生率は、約0.02%とのことです。
本当であれば確かに低率です。
しかし、イヌイットはかなり短命な民族であるそうで(正確な平均寿命は不明)、糖尿病になる前に、多くの人が死んでしまっている可能性があります。
また、健診制度がどこまで普及しているのかを考えれば、0.02%という数字に疑念を抱きたくもなります。

0.02%が本当であるとしても、こんな考え方もあると思います。つまり、イヌイットたちは、長年にわたる赤肉の大量摂取によって、
膵β細胞はかなり萎縮してしまい、インスリン分泌能は低下している。
しかし、糖質をほとんど食べないため、日常的に血糖値の上昇は起こりにくい。
従って、空腹時血糖とHbA1c値を測ったとしても、異常を発見できない。
代わりに、もしもブドウ糖負荷試験を行えば、多くのイヌイットが糖質を代謝できず、糖尿病型の血糖上昇パターンを示すであろう。
つまり、イヌイットたちは、普段の肉食では血糖上昇しないが、その代わり、一生糖質を食べられない体になってしまっている

上の、『』の中に述べたことは、私の推測ですが、おおいにあり得ると思います。
この考え方を実証するのは、大変だと思いますが、日本ローカーボ研究会の中で議論してみたいと思っています。

赤肉主体の食事の弊害については、ほとんど書き終わりましたが、イヌイットが短命である理由について、少し追加したいことがありました。
これを次回に書きます。

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