2012/12/24 我々はイヌイットにはなれないーその3 @千種区 内科

2012/12/24 我々はイヌイットにはなれないーその3 @千種区 内科

2012年12月24日

街はクリスマスイブで、素敵なイルミネーションがあちこちにみられます。
おいしいディナーを楽しんでいる方も多いでしょう。
ごちそうは、七面鳥の代わりに、チキンが多く消費されていることでしょう。

さて、クリスマスどころではなく忙しい方も多くおられると思いますので、これくらいにしておいて、本題です。
前回の予告通り、イヌイットの食生活に関する続編です。
イヌイットが短命である理由について、脳出血や肺動脈出血が多いことが原因で、それはアザラシを介して多量のEPA、DHAを摂取しているため、血液が固まりにくくなっているため、との記載をみたことがありますが、この意見はどうか、と思います。

確かにアザラシの肉に含まれるEPA, DHAは、哺乳動物であるわりには多いです。
だからといって、そのせいで出血死が多くなるとすれば、どうなるのでしょうか。
我が国でも漁師さんの多くは動物の肉を食べず、魚介類を多く食べているはずです。
しかし、漁師さんが短命、とは聞いたことがありません。

この疑問に応える論文があります。
2009年にProceeding National Academic Scienceという、基礎医学の専門誌に掲載されたマウスの動物実験ですが、12週間の厳しい糖質制限食の結果、欧米食のマウスに比して明らかに動脈硬化が強かったことが証明され、その原因として、厳しい糖質制限食では血管内皮前駆細胞が明らかに減少し、それを新生血管に誘導する酵素の活性も低下していることがわかりました。
しかも、糖質制限食実施4週の時点で、マウスの片足をしばって、その後の血管新生を観察した実験で、欧米食マウスに比して明らかに血管新生能が低下していることが実証されました。

マウスの実験じゃないか、とおっしゃるかもしれませんが、動物実験というのは、食事を完全に管理できるため、信頼度が高いのです。
(逆にヒトでは、指示された食事を長期間守るのは難しく、脱落しやすい)
しかも、ハーバード大学の心血管センターと幹細胞研究所が、この論文に関与しています。
厳しい糖質制限食で心血管疾患が増えるという臨床データを説明する答えとして、十分であると思います。
マウスとヒトの寿命から換算すると、ヒトが厳しい糖質制限食を2年半ほど続けると、すでに血管再生能力が低下していることになります。

主旨は血管再生能力すなわち血行障害に関することですから、イヌイットに出血死が多いことについて、直接の答えにはなりませんが、
少なくとも、厳しい糖質制限食が血管に対して悪影響を起こすことは容易に推察できます。
つまりEPAやDHAの血液サラサラ効果のせいで出血死しやすいのではなく、極端な糖質制限食を続けた結果、出血死しやすいのでしょう。
日本の漁師さん達は、魚だけでなく、穀物や野菜も食べているでしょうから、
そんな危険はない、と言いたいのです。

再三述べているように、厳しい糖質制限食を施行するとしても、なるべく短期間にしておいて、
糖毒性が解除されたら、穏やかローカーボか、従来の食事療法に戻すべき、と思います。

では、メリークリスマス

愛知県名古屋市千種区にある内科で食事療法による高血圧や糖尿病治療なら
むらもとクリニックへ

LINEで送る
Pocket