2014/07/06 人間ドック学会の「新基準」について @名古屋 内科
2014年07月07日
あれこれあって、8週間ぶりとなりました。今回は前置きなく、本題に入ります。
ちょっと難しいかもですが、よろしく。
「人間ドック学会が打ち出した新健康基準」の記事が踊ったのは、去る2014年4月5日の各新聞の朝刊でした。これ以来、診察のたびに
あの基準はどうなんですか、と訊かれることが多々あり、うんざりでした。
なので、いったいどんな発表であったのか、調べてみました。
結果、人間ドック学会の発表には一定の筋が通っていましたが、それを報じた新聞記事にはおおいに問題があったことがわかりました。
ここでは、「血圧の基準値」に絞って述べたいと思います。
人間ドック学会は、ドックを受けた150万人から、脂質や血糖値などの異常がなく、まだ医療機関を受診していない人々の血圧の分布を調べたのです。
それこそ収縮期血圧が90mmHgくらいから200mmHgぐらいまで、様々な人がいたと思いますが、これらを仕分けして、平たく言えば、
「あなたは血圧が高いグループだから高血圧、あなたは普通だから正常血圧」と、統計学的に分類してみたわけです。
適切な例えではないかも知れませんが、高校に入学してきた生徒を、成績順にクラス分けしただけのことです。
これにどれほどの意味があるか、考えてみませんか。
高校にとっては、生徒たちがこのあとどんな進路を歩み、どんな人生を送るかに関心があるはずです。
つまり、クラス分けしたら、その後の追跡調査が大切だ、ということです。
そもそも高血圧というのは、放置すると脳卒中や心筋梗塞の発症、腎機能の低下といったことが問題だから、治療が必要なのでしたね。
わが国でも、久山町研究という、生活習慣病と各種の合併症との関係を調べた、世界に誇るデータが蓄積されており、その中で、収縮期血圧が140mmHgを越えると脳卒中の発症が明らかに増加する事実が、すでに1993年に証明されていました。
この他にも世界中で同じ内容の研究結果が多数あります。
専門用語では、前向きコホート研究、と言います。
高校生の行く末の追跡調査は、せいぜい5年から10年くらいでしょうが、こういった医学的な前向きコホート研究の結果を出すには、それこそ30年間ほどの追跡調査が必要となり、前述の久山町研究の結果も、実に32年間の追跡調査の結果なのです。
こんな労力を費やして出された結果のことを、エビデンス(証拠)と呼んでおり、証拠に基づく医療(evidence-based medicine)が一般化しています。
人間ドック学会が出した147mmHg、という値は、こんな歴史的な証拠をくつがえすだけの根拠はないですよね。
各新聞の記事は誤報であると、はっきり書いてくれているサイトも見つかりました。
http://gohoo.org/alerts/140415/
実は、ドック学会の理事長先生は、追跡調査が必要、と述べていたのに、各紙はこれを省いて、あたかも基準が変わったかのように報じたわけです。
なので一般の皆さんが勘違いするのは当然だったかもしれません。
本当は、高血圧の診断基準は、何も変わっておりません。
この報道の後、あるTV番組の中で、某有名タレントさんが、「無意味な治療を受けていた!」と言って憤慨していましたよ、と当院の患者さんが教えてくれました。
調べてみたらこれは深夜番組のようでしたが、もしかしたらこのタレントさんの発言を聞いて、降圧剤服用をやめてしまった方があったかも知れない、と考えると・・・
新聞記事が正しいとは限らない、というのは、皆さんにとってショックでしょうか。あるいは周知のことでしたでしょうか。
まあ、これに限らず、皆さんを迷わせてしまう情報は氾濫していますね。
これについては次回以降で。
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