医療の進歩と、科学的根拠に基づく医療

医療の進歩と、科学的根拠に基づく医療

2015年09月23日

この9月は、例年にない連休がありましたね。私にとっても、久しぶりの骨休めとなりました。気がつけばすっかり秋模様。これから冬にむけて、血圧に注意の季節となります。

今回は、「科学的根拠に基づく医療」について、専門用語を使わずに解説し、それについて一般論として思うところを、きままに綴ってみます。英語ではEvidence-based Medicineと言い、医療関係者はこれを省略してEBMと呼びます。エビデンスの語源は、「明らかになったこと」の意味ですが、使い慣れない方は、一つ一つの「事実」とか「情報」という言葉に置き換えてもよいでしょう。

現代の医療は、このEBMが大切とされています。治療には確かな根拠があること、そしてそれを十分説明して納得していただく必要性があります。しかし我々が持つ「情報」はあまりに多岐にわたり、その情報量も膨大で、すべてを患者さんに説明するのは大変困難ですので、どう説明するかの技量が問われることになります。実際、私が患者さんへの説明用として、診察室のパソコンに保存してあるのは、膨大な情報のごく一部です。

これらの「エビデンス=情報」は、誰が世界に提供しているのかというと、例えばたくさんの患者さんを診る大病院、とくに大学病院などです。皆さんに様々な治療が施された「成果」が集計されて、論文として世界に発信されているのです(もちろん個人情報は厳守しています)。そしてこれらの情報を集めて、専門家たちが協議した結果、どんな治療法が一番よいか(たとえば使用する薬の種類も含めて)が決まってくるというわけです。

これを「大学病院は人体実験をしている」と批判される方がおられますが、しかしよく考えてみて下さい。結果が集計されなければ、例えばある種の治療の成果がどれほどなのか、副作用は何がどれくらいあるのか、全くわからないことになります。あなたが現在受けておられる治療の成果がどれくらい望めるかが、あらかじめわかっているのは何故かと言うと、先人たちが同じ治療を受けた成果が報告されてきたからです。逆に、何も成果が報告されていない薬を、果たして使って欲しいでしょうか。

ところで、「医療は進歩したねえ」と患者さんから言われることがよくあります。まさに医療はEBMによって進歩してきた、と言えます。ところで、「進歩してきた」という事実を、逆の見方をすれば、昔の治療は残念ながら最善ではなかった、ということでもあります。しかし、やはり冷静に考えてほしいのですが、あくまでその時代には最善と判断される治療が、間違いなく行われてきたはずです。それが、新しい事実が判明したり、新しい治療法や新しい薬が発明されたりする度に、それまでの治療法が部分的に否定されていったり、修正されていった歴史があるのです。医療の進歩は、決して一直線に順調に伸びていったものではなく、様々な膨大な情報を蓄積しながら、あえて言えば苦難の道を少しずつ前進していったものだ、と思っています。

こんな歴史があるから、ふと昔の治療法と最新の治療法を比べてみると、隔世の感に襲われるわけです。具体的には、糖尿病治療も、高血圧治療も、昔とは大きく違います。そして敢えて言えば、これからも医療は進歩していくのでしょうから、現在の治療が究極のものだというわけでは決してないということも、肝に銘じるべきです。

少なくとも私が思うのは、昔のものをかたくなに信じ続けるより、新しい情報を重視するべきで、そうしなければ進歩は止まるということです。今回は総論的な話になってしまいましたが、次の機会に各論を述べたいと思います。

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