果糖に関するデマ②-果糖摂取は老化の原因になるのか?
2017年05月04日
先回のブログから、久しぶりになります。
最近揺れ動く世界情勢の中にあっても、浅田真央選手の引退は、世界中の人々にとって大きな出来事でした。連日のTVニュースや特別番組に加えて、スポーツ紙やスポーツ関連雑誌に特集が組まれるなど、国民的スターならではの反響でした。私にとっても、スポーツ選手の引退会見を観て、涙をこらえるというのは、おそらく初めての経験でした。
先回書いた、果糖の話題の続きを書きます。健康や医学に関することは各種のTV番組にとりあげられることが多く、理解すればなかなか役に立ちます。しかし、以前の某TV番組の中で、「果糖の摂りすぎは老化につながる」とされていたのには、疑問を感じました。
同番組内には有名な大学教授が出演され、果糖液の中に沈められた骨がボロボロに変色してしまった様子を見せていました。確かに代謝学の専門家の間では、老化の原因として最終糖化産物(AGE)の研究が進んでおり、果糖はブドウ糖よりもAGEを産生しやすいから、食べ過ぎない方がよいと主張されているのです。しかし、このようなことは実際に起こるのでしょうか。
本題の前に、まずは雑学知識ですが、果物と野菜の違いは植物学的には木か草か、ということになるそうです。しかし、これに基づいて分類すると、少々異和感を覚えるものがあります。たとえば、レモン、トマトは果物、バナナ、イチゴ、スイカ、メロンは野菜となります。糖度の高いトマトはフルーツトマトと呼ばれますが、もともとフルーツだから矛盾した言葉ですね。難しいのはバナナで、木の幹のようなものがありますが、あれは硬い茎が集合しているのだそうで、草、つまり野菜となるようです。
でも我々にとって、このような分類はどうでもよく、ここでは甘いものを果物と呼んでおきましょう。先回述べたように、果物に含まれる糖質には、果糖、ブドウ糖、ショ糖の3種があります。果糖とブドウ糖は小腸から吸収され、一緒に肝細胞内に運ばれますが、最初の代謝がブドウ糖よりも20倍ほど進みやすく、一瞬で濃度が下がるようになっています。しかも、生体にはブドウ糖を合成する代謝経路(糖新生)が存在しますが、果糖を合成する代謝経路は存在しません。結果として、肝臓を素通りして全身血流に入る果糖はごく少量となっており、実際に末梢の血を採って調べると、果糖の濃度はブドウ糖の濃度の500分の1ほどになっているとのことです。だから、果糖がブドウ糖よりも数倍AGEを産生しやすいとはいっても、全くといっていいほど老化への影響はありません。つまり、老化の原因である果糖(ひどい言い方をすれば、一種の毒物)から身を守るため、全身血流にまわらないように、肝臓で解毒しているのだと思っています。
こういった理論的背景を証明する、日本人の疫学研究があります。果物摂取量が多い人は、摂取量が少ない人に比べて2型糖尿病発症が増加することはなく、脳血管疾患での死亡率は減少することがわかっています。これが果物は健康食品であると考える理由です。
ただ、付け加えるならば、肝硬変の方にとっては事情が異なってきます。肝硬変の患者さんは、もともと肝臓の代謝能力(解毒作用)が低下しています。しかも肝臓の周囲に、門脈から全身血流につながるバイパス血管が多数発生しているため、果糖がまったく代謝を受けないままで全身にかなり回ってしまうはずです。したがって肝硬変の患者さんは、果物や砂糖の摂取をひかえるべき、と思います。これを実証する疫学研究が期待されるところです。