大杉漣さんの訃報

大杉漣さんの訃報

2018年03月05日

ようやく冬も終わりを告げ、春の兆しがみられるようになりました。過ごしやすい季節はもうすぐです。

先日、とはいっても10日ほど前になりますが、俳優の大杉漣さんがお亡くなりになりました。主役級の輝きを放つ名脇役の突然の訃報に、誰もが驚き、ショックを受けました。公式には急性心不全であったということだけが発表されました。

こういった時、どうしてこうなったかをつい推察してしまうのが、医師の性(さが)です。すでにテレビ報道をはじめとして、多くの方がさまざまな考察を述べられています。

まずは急死の原因になりうる腹痛というと一般的に何が考えられるか、私なりに主なところを挙げてみます。①急性心筋梗塞、②腹部大動脈破裂、③絞扼性イレウス、④腸管壁損傷から生じた門脈内ガス血症による急性肝不全、といったところだと思います。この中でも、実に多くの方が①心筋梗塞であったと推察されています。しかし、私は大いに疑問を感じます。

大杉さんは夜12時ころに腹痛を訴え、救急搬送されたものの、約4時間後に息をひきとっておられます。急性心不全と関連する、頻度の高い疾患として急性心筋梗塞が想起されるわけです。しかし、一部の報道では「急な腹痛」「激しい腹痛」であったとされており、これが心筋梗塞とは合致しないと思います。心筋梗塞の場合、腹痛はみぞおちあたりに起こりますが、「激しい腹痛」にはなりにくいとされています。しかも、プラークが破綻した瞬間から約2時間かけて冠動脈が完全閉塞するのが一般的であるため、「急な腹痛」をおこすことも考えにくいです。

対して②の腹部大動脈破裂による腹痛は、破裂した瞬間から「急な激しい腹痛」になりやすいし、血圧低下をきたしてくると救命には緊急手術しかありません。発症から4時間足らずで、なすすべもなく亡くなってしまった事実から考えると、心筋梗塞よりもよっぽど考えやすいと思うのです。

他の候補として③絞扼性イレウスの可能性は残ると思いますが、経過があまりにも急なことが非典型的です。④門脈内ガス血症・・・は腹部外傷がないと成り立たないので、大杉さんの場合、当てはまりません。なお、大動脈解離が死因であったとする意見もみられますが、そもそも腹部大動脈解離だけでは、命取りになるとは考えにくいです。「解離」と「破裂」では、経過が大きく異なります。

大杉さんが本当に腹部大動脈瘤破裂であったかどうか、確かめる術はありません。しかし、今後皆さんがこのような悲劇を起こされぬよう、何か予防策はあるのでしょうか。

まず、破裂しやすい大動脈瘤は、焼き餅のように片側に膨らむ「嚢状大動脈瘤」ですが、これが生じる原因として指摘されているのが、意外なことに歯周病です。大動脈瘤の壁の中に一部の悪玉歯周病菌が検出されることはかなり前からわかっており、大動脈瘤以外にも、歯周病と動脈硬化性疾患との関連性が指摘されています。従って、中年以降は生活習慣病対策に加えて歯周病対策が大切でしょう。

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