夜間頻尿に関わる諸問題
2019年01月04日
新年明けましておめでとうございます。昨年もいろいろな出来事がありましたが、個人的に最も印象に残ったのは、本庶佑博士のノーベル医学生理学賞受賞でした。インタビューの中で、「科学者として最も大切にしていること」を記者から尋ねられた本庶先生が、「まず信じないことです」と即答された時、私の体に電流が走る思いでした。目や耳から入ってくる情報が本当かどうか、ひとつひとつ疑問を抱いて検証してゆくことが大切であることを、本庶先生はたった一言で見事に表現されたのです。前回のブログともつながりますが、私の本音もまさにそれです。
久しぶりのブログになりますが、冬ですので血圧関連の話題にしようと思います。高齢の患者さん、とくに高血圧治療中の方によくみられる症状に、夜間頻尿があります。本来、抗利尿ホルモンの働きによって夜間には1回も排尿する必要がないはずなのですが、夜間頻尿はこれが破綻した状態ですので、夜間に1回でもトイレに行くならば、何とかして改善すべきです。患者さんによっては夜間に6回もトイレに行く方もあります。まず、これを発見するポイントですが、患者さん自身から申告される例は少ないため、医師側から積極的に聞き出すことから始まります。
しかも夜間頻尿の原因は様々です。高齢のため、抗利尿ホルモンの分泌能低下が基礎にあると思われますが、これに加えて泌尿器科疾患としては前立腺肥大、膀胱容量の減少(過活動膀胱も含む)、神経因性膀胱が主なところです。他にも慢性心不全、不眠症(睡眠障害)、多量の飲水(心因性多飲や糖尿病)、就床前の飲酒などがあります。さらに細かく述べれば、睡眠障害の中には睡眠時無呼吸症候群、低血糖といったものも含まれ、これらも夜間頻尿につながります。これらのいずれが原因であるか、あるいは複合的な原因が関わっているのか、細かい問診でできる限り探ってゆくことになります。
問診内容は、例えば、夜間頻尿は何歳ごろから始まったのか、日中も頻尿であるのか、夜間頻尿は夏でも冬でも同じか、就床前の飲酒やカフェイン摂取、あるいは多量の飲水があるか、夜間の1回分の尿量は多いか少ないか、塩分摂取量は多いか、などです。必要に応じて追加する検査は、胸部レントゲン、血中BNP測定、膀胱容量や前立腺の容積を見るための腹部エコー、尿中ナトリウム測定があります。
問診と検査の結果、生活習慣の改善指導や投薬によって夜間頻尿をしっかりと改善できるかどうかですが、そのプロセスや結果は実は簡単ではありません。ただし慢性心不全症例においては塩分摂取量の制限、あるいは利尿薬投与によって、比較的容易に夜間頻尿を改善することができている印象です。簡単ではないからこそ、高血圧診療の中で力を入れるべきポイントのひとつであると思っています。