中山美穂さんの訃報の考察と脳ドックについて
2024年12月08日
令和6年12月6日、中山美穂さんの訃報に日本中が驚きました。早すぎる突然の死に、多くの方から追悼のメッセージが寄せられています。持病がないとされていた中山さんになぜこのようなことが起こったのか、今のところ正式な発表がありません。そのため推察や憶測が出回っています。 今回は入浴中に起こったため、急激な環境変化によるヒートショックの関与が挙げられています。ヒートショックは当院の院長ブログでもとりあげたことがあるもので、 https://muramoto-clinic.com/blog/108/ その可能性は大いにあります。ただしヒートショックは病名ではありませんので、その結果として起こった直接的な死因が何であったのか、考察する必要があります。中山さんは54歳女性
で、心筋梗塞や脳出血がおこる可能性は低いでしょう。私は、もっとも考えやすいのはクモ膜下出血であろうと考えます。以後、少し刺激の強い表現があるかと思いますが、ご容赦下さい。 クモ膜下出血は、脳動脈瘤や脳動静脈奇形がもともと存在していてこそ起こるものですが、急激に起こる強い頭痛の後、一瞬で意識消失してそのまま昏睡に陥ることがあるため、今回の事件に合致します。入浴中でなかったとしても、昏睡状態からすぐに救急措置を施す必要がありますので、独り暮らしの方は極めて不利です。クモ膜下出血はこのように危険な病気です。 中山さんがクモ膜下出血であったとすれば、怖くなって脳ドックを希望する人が増えるかもしれません。検査の結果が正常とわかれば安心ですから、脳ドックを受けたい気持ちは十分に理解できます。脳ドックでは脳MRIとMRAが必須で、頸動脈エコーを加えることもあります。脳MRAでは脳動脈瘤が発見されることがあり、発見されると手術適応について脳神経外科を受診することになりますが、必ずしも手術を勧められるわけではありません。それはなぜでしょうか。 脳動脈瘤が破裂する確率は、脳動脈瘤の位置やサイズ、形状によって異なりますが、一般に3~4mm大の嚢状動脈瘤であったとしても、それを1年間放置した場合に破裂する確率は0.36%と、以外にも低いことがわかっています。脳ドックで発見される脳動脈瘤の多くは2mm程度ですから、その場合の破裂する確率は1年で0.36%未満と推察されます。(下のUCAS Japan参照)。
一方、脳動脈瘤をクリッピング手術した場合、死亡を含めた重篤な合併症が数%おこるとされており、これが上述の1年での破裂確率よりも高いことが問題になります。万が一にも手術によって患者さんを不幸にしてはならないという医療の原則から、小さな脳動脈瘤に対して医者は手術を勧めず、1年ごとの再検で脳動脈瘤が増大するかどうかを観察することを勧めることが多いのです。 結果として、脳動脈瘤があるとわかっていて経過観察の方針を指示された患者さんは、もしかしたら破裂するのでは、と不安な気持ちで日々を過ごすことになるかもしれません。脳ドックを受けることのデメリットを挙げるとすればこのことですので、よくお考えになった上で受診されるかどうかを決めて下さい。 クモ膜下出血は軽症であれば後遺症なく復帰可能で、クモ膜下出血例全体の約30%であるそうです。星野源さんは強運の持ち主の一人でしょう。その一方で、今回の中山さんにはあらためてご冥福をお祈りします。最後にヒートショックの話に戻りますが、浴槽につかることには代謝の促進など大きなメリットがあります。ことさらに入浴によるヒートショックを恐れて浴槽につかるのをやめてしまうのは、賢い選択ではないと現在の私は思っています。